性的虐待された10代少女が、ベランダから「助けて」…24時間チャット相談に集まる逃げ場のない声
現役慶応大学生の大空幸星さん(おおぞら こうき)は20歳のときにNPO法人「あなたのいばしょ」を設立しました。活動内容は日本初となる24時間対応、無料・匿名のチャット相談「あなたのいばしょ」の運営です。「誰かに頼りたいのに、誰も頼れる人がいない“望まない孤独”」状態にある人の最後の砦となっています。
相談者である10代の女性・Aさんは父親から性的虐待を受け、ベランダに閉め出された状態でチャットに相談をしてきました。非常に危険な状態にあるにもかかわらず、彼女は児童相談所への通報(通告)を拒否したそうです。その理由は、彼女の過去の体験が関係していました(以下、同書より一部編集の上抜粋)。
突然「助けてください」と相談がきた
ある日、10代の女性Aさんから相談があった。最初にチャットに書き込まれた言葉は「助けてください」。私たちの相談システムが、相談内容などから自動判断した相談カテゴリーは「虐待」だ。私たちには、虐待やDV、すぐにでも命を絶とうとしている方などからの相談については、独自のアルゴリズムで緊急性を判断し、緊急に対応する必要がある相談は、優先的に対応する仕組みがある。この相談も緊急性があると判断され、相談員がただちに相談支援を開始した。
相談者が発する最初の言葉は人によって異なるが、多くは「〇〇で悩んでいる」といった、いま困っていることを話す場合か、「しんどいです」といった現在の感情を伝えてくれる場合の2つにわけることができる。今回の相談のような「助けてください」といった言葉は異例であり、この最初の言葉だけをとってみても、緊急性の高いことが窺える。
緊急相談時に真っ先に確認すること

これは緊急相談の場合に最初に確認すべき事項で、身近に危険が及んでいる場合は、物理的にその危険から少しでも遠くに移動してもらう必要があるからだ。相談員は、「虐待」という相談カテゴリーと、「助けてください」という最初の言葉から、「虐待を受けていて、現在深刻な状況にある」と仮定して相談対応を始めたということになる。
この時点で相談員は、相談者が置かれた状況を、「直前に虐待を受けたか現在も虐待の最中」もしくは「まもなく虐待を行う者が帰宅するなどして、これから虐待を受ける可能性が高い」の2つと仮定している。そしてまずは、「隙をついて家を飛び出して、コンビニなどに逃げ込む余裕があるか」などの点を確認しようとした。しかし、結果的にそのどちらも当てはまらなかった。Aさんがいる場所は、自宅のベランダだったのだ。
話を聴いていくと、毎日のように父親から性的虐待を受け、行為が終わったあと、ベランダに閉め出されて、そこで夜を明かし、朝になったら部屋に入れてもらえるという。母親はいなくて、父親と二人暮らし。その日も、ベランダで泣きながら、インターネットで検索した私たちの相談窓口に藁にもすがる思いで駆け込んだのだ。
「最優先事項」はケースによって変わる

こうした場合に私たちは、速やかに児童相談所に通告する必要がある。しかし、チャット相談の場合はいきなり「虐待を受けているんですね。では、いまから児童相談所(子どもを守る人たちと言い換える場合もある)に通告します」などと言ってしまうと、多くの相談者は「それは怖いです」「だったら大丈夫です」などと拒絶してしまう。
チャット相談の利点でもあるが、相談者は自らの意思で簡単に相談を始めたりやめたりすることができる。そのため、拒絶されてしまうとチャットから退出してしまい、その場で相談が終了してしまうことがあるのだ。そうなると、本来であれば救える命も救えなくなってしまう。
今回のケースも、すぐに「児童相談所に通告します」と伝えるのではなく、まずは相談者との間で信頼関係を構築することを最優先とした。信頼関係の構築を優先する理由は、この場合はほかにもある。それは、Aさんがベランダという自殺を図ることが可能な空間に閉じ込められているという点だ。
私たちの相談者のうち、虐待を受けている子どもの多くが、虐待から逃れようと苦しむあまり、自らを責めたりして、結果として強い自殺念慮を抱いている場合も多い。そのため、仮にAさんが強い自殺念慮を抱いていた場合に信頼関係が構築されていない状態で、取り調べのように虐待の詳細、住所や連絡先などの個人情報を聞くことは極めて危険だったのだ。
Aさんが児童相談所への通報を嫌がった理由
私たちは「今日は相談してくれてありがとうございます。虐待について悩んでおられるのですね、おつらい状況だと思います。私たちがAさんと一緒にできることを最大限考えていきますからね」という、相談してくれたことへの感謝と主訴の確認をした。するとAさんは、「児相や警察には絶対に通報しないでください」
と訴えてきた。話を聴き進めていくと、Aさん自身に過去、児童相談所からの相談支援経験があったものの、「何も助けてくれなかった」のだという。虐待を受けている子どもからの相談に児童相談所への通告を伝えると「絶対にやめてください」という場合も多い。もちろん事態の深刻度によっては、本人が児童相談所への通告を拒否したとしても、通告を行うことはある。
ただ、今回の場合は、Aさんとの信頼関係を築くことを優先する必要があった。
40分以上にわたる会話でAさんに変化が…

また、Aさんも「少しお話したいです」と、まずは対話をすることを望んでいた。その後、相談員とAさんは共通の趣味が音楽であるということをきっかけにして、徐々に関係性を構築していった。
1回の相談の目安は40分だが、このときは40分を過ぎても会話が続くほど、Aさんは少しずつ心を開いてくれた。親からの性的虐待という筆舌に尽くし難い苦難のなかで、凝り固まった他者への不信感を少しずつ解きほぐしていったのだ。
相談が終盤に差しかかったとき、相談員は改めて、「児童相談所の方とお話ししてみませんか」と投げかけた。
すると、相談の冒頭では絶対に児童相談所には連絡をしないでほしいと伝えていたAさんが、「わかりました。相談員さんがそう言うなら、話してみます」と答えてくれるようになった。その後、最終的には児童相談所へつなぎ(通告)、継続的に支援していった。
<TEXT/NPO法人あなたのいばしょ理事長 大空幸星>
【大空 幸星】
24時間対応、無料チャット相談「あなたのいばしょ」代表。慶應義塾大学在学中に「あなたのいばしょ」を立ち上げ、約2年弱でDV、ネグレクト、過剰なストレスで悩む人など、老若男女問わず多くの人々から20万件以上のチャット相談を受ける。国会にも働きかけ、孤独担当大臣の創設や、孤独政策の方針作成にも尽力
(出典 news.nicovideo.jp)